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《吾輩は猫である》 作者:夏目漱石

三 - 5

「それから英国へ移って論じますと、ベオウルフの中に絞首架(こうしゅか)即(すなわ)ちガルガと申す字が見えますから絞罪の刑はこの時代から行われたものに違ないと思われます。ブラクストーンの説によるともし絞罪に処せられる罪人が、万一縄の具合で死に切れぬ時は再度(ふたたび)同様の刑罰を受くべきものだとしてありますが、妙な事にはピヤース·プローマンの中には仮令(たとい)兇漢でも二度絞(し)める法はないと云う句があるのです。まあどっちが本当か知りませんが、悪くすると一度で死ねない事が往々実例にあるので。千七百八十六年に有名なフツ·ゼラルドと云う悪漢を絞めた事がありました。ところが妙なはずみで一度目には台から飛び降りるときに縄が切れてしまったのです。またやり直すと今度は縄が長過ぎて足が地面へ着いたのでやはり死ねなかったのです。とうとう三返目に見物人が手伝って往生(おうじょう)さしたと云う話しです」「やれやれ」と迷亭はこんなところへくると急に元気が出る。「本当に死に損(ぞこな)いだな」と主人まで浮かれ出す。「まだ面白い事があります首を縊(くく)ると背(せい)が一寸(いっすん)ばかり延びるそうです。これはたしかに医者が計って見たのだから間違はありません」「それは新工夫だね、どうだい苦沙弥(くしゃみ)などはちと釣って貰っちゃあ、一寸延びたら人間並になるかも知れないぜ」と迷亭が主人の方を向くと、主人は案外真面目で「寒月君、一寸くらい背(せい)が延びて生き返る事があるだろうか」と聞く。「それは駄目に極(きま)っています。釣られて脊髄(せきずい)が延びるからなんで、早く云うと背が延びると云うより壊(こわ)れるんですからね」「それじゃ、まあ止(や)めよう」と主人は断念する。

演説の続きは、まだなかなか長くあって寒月君は首縊りの生理作用にまで論及するはずでいたが、迷亭が無暗に風来坊(ふうらいぼう)のような珍語を挟(はさ)むのと、主人が時々遠慮なく欠伸(あくび)をするので、ついに中途でやめて帰ってしまった。その晩は寒月君がいかなる態度で、いかなる雄弁を振(ふる)ったか遠方で起った出来事の事だから吾輩には知れよう訳がない。

二三日(にさんち)は事もなく過ぎたが、或る日の午後二時頃また迷亭先生は例のごとく空々(くうくう)として偶然童子のごとく舞い込んで来た。座に着くと、いきなり「君、越智東風(おちとうふう)の高輪事件(たかなわじけん)を聞いたかい」と旅順陥落の号外を知らせに来たほどの勢を示す。「知らん、近頃は合(あ)わんから」と主人は平生(いつも)の通り陰気である。「きょうはその東風子(とうふうし)の失策物語を御報道に及ぼうと思って忙しいところをわざわざ来たんだよ」「またそんな仰山(ぎょうさん)な事を云う、君は全体不埒(ふらち)な男だ」「ハハハハハ不埒と云わんよりむしろ無埒(むらち)の方だろう。それだけはちょっと区別しておいて貰わんと名誉に関係するからな」「おんなし事だ」と主人は嘯(うそぶ)いている。純然たる天然居士の再来だ。「この前の日曜に東風子(とうふうし)が高輪泉岳寺(たかなわせんがくじ)に行ったんだそうだ。この寒いのによせばいいのに――第一今時(いまどき)泉岳寺などへ参るのはさも東京を知らない、田舎者(いなかもの)のようじゃないか」「それは東風の勝手さ。君がそれを留める権利はない」「なるほど権利は正(まさ)にない。権利はどうでもいいが、あの寺内に義士遺物保存会と云う見世物があるだろう。君知ってるか」「うんにゃ」「知らない?だって泉岳寺へ行った事はあるだろう」「いいや」「ない?こりゃ驚ろいた。道理で大変東風を弁護すると思った。江戸っ子が泉岳寺を知らないのは情(なさ)けない」「知らなくても教師は務(つと)まるからな」と主人はいよいよ天然居士になる。「そりゃ好いが、その展覧場へ東風が這入(はい)って見物していると、そこへ独逸人(ドイツじん)が夫婦連(づれ)で来たんだって。それが最初は日本語で東風に何か質問したそうだ。ところが先生例の通り独逸語が使って見たくてたまらん男だろう。そら二口三口べらべらやって見たとさ。すると存外うまく出来たんだ――あとで考えるとそれが災(わざわい)の本(もと)さね」「それからどうした」と主人はついに釣り込まれる。「独逸人が大鷹源吾(おおたかげんご)の蒔絵(まきえ)の印籠(いんろう)を見て、これを買いたいが売ってくれるだろうかと聞くんだそうだ。その時東風の返事が面白いじゃないか、日本人は清廉の君子(くんし)ばかりだから到底(とうてい)駄目だと云ったんだとさ。その辺は大分(だいぶ)景気がよかったが、それから独逸人の方では恰好(かっこう)な通弁を得たつもりでしきりに聞くそうだ」「何を?」「それがさ、何だか分るくらいなら心配はないんだが、早口で無暗(むやみ)に問い掛けるものだから少しも要領を得ないのさ。たまに分るかと思うと鳶口(とびぐち)や掛矢の事を聞かれる。西洋の鳶口や掛矢は先生何と翻訳して善いのか習った事が無いんだから弱(よ)わらあね」「もっともだ」と主人は教師の身の上に引き較(くら)べて同情を表する。「ところへ閑人(ひまじん)が物珍しそうにぽつぽつ集ってくる。仕舞(しまい)には東風と独逸人を四方から取り巻いて見物する。東風は顔を赤くしてへどもどする。初めの勢に引き易(か)えて先生大弱りの体(てい)さ」「結局どうなったんだい」「仕舞に東風が我慢出来なくなったと見えてさいならと日本語で云ってぐんぐん帰って来たそうだ、さいならは少し変だ君の国ではさよならをさいならと云うかって聞いて見たら何やっぱりさよならですが相手が西洋人だから調和を計るために、さいならにしたんだって、東風子は苦しい時でも調和を忘れない男だと感心した」「さいならはいいが西洋人はどうした」「西洋人はあっけに取られて茫然(ぼうぜん)と見ていたそうだハハハハ面白いじゃないか」「別段面白い事もないようだ。それをわざわざ報知(しらせ)に来る君の方がよっぽど面白いぜ」と主人は巻煙草(まきたばこ)の灰を火桶(ひおけ)の中へはたき落す。折柄(おりから)格子戸のベルが飛び上るほど鳴って「御免なさい」と鋭どい女の声がする。迷亭と主人は思わず顔を見合わせて沈黙する。

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