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《吾輩は猫である》 作者:夏目漱石

五 - 2

さすがに春の灯火(ともしび)は格別である。天真爛漫(らんまん)ながら無風流極まるこの光景の裏(うち)に良夜を惜しめとばかり床(ゆか)しげに輝やいて見える。もう何時(なんじ)だろうと室(へや)の中を見廻すと四隣はしんとしてただ聞えるものは柱時計と細君のいびきと遠方で下女の歯軋(はぎし)りをする音のみである。この下女は人から歯軋りをすると云われるといつでもこれを否定する女である。私は生れてから今日(こんにち)に至るまで歯軋りをした覚(おぼえ)はございませんと強情を張って決して直しましょうとも御気の毒でございますとも云わず、ただそんな覚はございませんと主張する。なるほど寝ていてする芸だから覚はないに違ない。しかし事実は覚がなくても存在する事があるから困る。世の中には悪い事をしておりながら、自分はどこまでも善人だと考えているものがある。これは自分が罪がないと自信しているのだから無邪気で結構ではあるが、人の困る事実はいかに無邪気でも滅却する訳には行かぬ。こう云う紳士淑女はこの下女の系統に属するのだと思う。――夜(よ)は大分更(だいぶふ)けたようだ。

台所の雨戸にトントンと二返ばかり軽く中(あた)った者がある。はてな今頃人の来るはずがない。大方例の鼠だろう、鼠なら捕(と)らん事に極めているから勝手にあばれるが宜(よろ)しい。――またトントンと中(あた)る。どうも鼠らしくない。鼠としても大変用心深い鼠である。主人の内の鼠は、主人の出る学校の生徒のごとく日中(にっちゅう)でも夜中(やちゅう)でも乱暴狼藉(ろうぜき)の練修に余念なく、憫然(びんぜん)なる主人の夢を驚破(きょうは)するのを天職のごとく心得ている連中だから、かくのごとく遠慮する訳がない。今のはたしかに鼠ではない。せんだってなどは主人の寝室にまで闖入(ちんにゅう)して高からぬ主人の鼻の頭を囓(か)んで凱歌(がいか)を奏して引き上げたくらいの鼠にしてはあまり臆病すぎる。決して鼠ではない。今度はギーと雨戸を下から上へ持ち上げる音がする、同時に腰障子を出来るだけ緩(ゆる)やかに、溝に添うて滑(すべ)らせる。いよいよ鼠ではない。人間だ。この深夜に人間が案内も乞わず戸締(とじまり)を外(は)ずして御光来になるとすれば迷亭先生や鈴木君ではないに極(きま)っている。御高名だけはかねて承(うけたま)わっている泥棒陰士(どろぼういんし)ではないか知らん。いよいよ陰士とすれば早く尊顔(そんがん)を拝したいものだ。陰士は今や勝手の上に大いなる泥足を上げて二足(ふたあし)ばかり進んだ模様である。三足目と思う頃揚板(あげいた)に蹶(つまず)いてか、ガタリと夜(よる)に響くような音を立てた。吾輩の背中(せなか)の毛が靴刷毛(くつばけ)で逆に擦(こ)すられたような心持がする。しばらくは足音もしない。細君を見ると未(ま)だ口をあいて太平の空気を夢中に吐呑(とどん)している。主人は赤い本に拇指(おやゆび)を挟(はさ)まれた夢でも見ているのだろう。やがて台所でマチを擦(す)る音が聞える。陰士でも吾輩ほど夜陰に眼は利(き)かぬと見える。勝手がわるくて定めし不都合だろう。

この時吾輩は蹲踞(うずく)まりながら考えた。陰士は勝手から茶の間の方面へ向けて出現するのであろうか、または左へ折れ玄関を通過して書斎へと抜けるであろうか。――足音は襖(ふすま)の音と共に椽側(えんがわ)へ出た。陰士はいよいよ書斎へ這入(はい)った。それぎり音も沙汰もない。

吾輩はこの間(ま)に早く主人夫婦を起してやりたいものだとようやく気が付いたが、さてどうしたら起きるやら、一向(いっこう)要領を得ん考のみが頭の中に水車(みずぐるま)の勢で廻転するのみで、何等の分別も出ない。布団(ふとん)の裾(すそ)を啣(くわ)えて振って見たらと思って、二三度やって見たが少しも効用がない。冷たい鼻を頬に擦(す)り付けたらと思って、主人の顔の先へ持って行ったら、主人は眠ったまま、手をうんと延ばして、吾輩の鼻づらを否(い)やと云うほど突き飛ばした。鼻は猫にとっても急所である。痛む事おびただしい。此度(こんど)は仕方がないからにゃーにゃーと二返ばかり鳴いて起こそうとしたが、どう云うものかこの時ばかりは咽喉(のど)に物が痞(つか)えて思うような声が出ない。やっとの思いで渋りながら低い奴を少々出すと驚いた。肝心(かんじん)の主人は覚(さ)める気色(けしき)もないのに突然陰士の足音がし出した。ミチリミチリと椽側を伝(つた)って近づいて来る。いよいよ来たな、こうなってはもう駄目だと諦(あき)らめて、襖(ふすま)と柳行李(やなぎごうり)の間にしばしの間身を忍ばせて動静を窺(うか)がう。

陰士の足音は寝室の障子の前へ来てぴたりと已(や)む。吾輩は息を凝(こ)らして、この次は何をするだろうと一生懸命になる。あとで考えたが鼠を捕(と)る時は、こんな気分になれば訳はないのだ、魂(たましい)が両方の眼から飛び出しそうな勢(いきおい)である。陰士の御蔭で二度とない悟(さとり)を開いたのは実にありがたい。たちまち障子の桟(さん)の三つ目が雨に濡れたように真中だけ色が変る。それを透(すか)して薄紅(うすくれない)なものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて、赤い舌がぺろりと見えた。舌はしばしの間(ま)に暗い中に消える。入れ代って何だか恐しく光るものが一つ、破れた孔(あな)の向側にあらわれる。疑いもなく陰士の眼である。妙な事にはその眼が、部屋の中にある何物をも見ないで、ただ柳行李の後(うしろ)に隠れていた吾輩のみを見つめているように感ぜられた。一分にも足らぬ間ではあったが、こう睨(にら)まれては寿命が縮まると思ったくらいである。もう我慢出来んから行李の影から飛出そうと決心した時、寝室の障子がスーと明いて待ち兼ねた陰士がついに眼前にあらわれた。

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