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《吾輩は猫である》 作者:夏目漱石

五 - 5

やがて陰士は山の芋の箱を恭(うやうや)しく古毛布(ふるげっと)にくるみ初めた。なにかからげるものはないかとあたりを見廻す。と、幸い主人が寝る時に解(と)きすてた縮緬(ちりめん)の兵古帯(へこおび)がある。陰士は山の芋の箱をこの帯でしっかり括(くく)って、苦もなく背中へしょう。あまり女が好(す)く体裁ではない。それから小供のちゃんちゃんを二枚、主人のめり安(やす)の股引(ももひき)の中へ押し込むと、股のあたりが丸く膨(ふく)れて青大将(あおだいしょう)が蛙(かえる)を飲んだような――あるいは青大将の臨月(りんげつ)と云う方がよく形容し得るかも知れん。とにかく変な恰好(かっこう)になった。嘘だと思うなら試しにやって見るがよろしい。陰士はめり安をぐるぐる首(くび)っ環(たま)へ捲(ま)きつけた。その次はどうするかと思うと主人の紬(つむぎ)の上着を大風呂敷のように拡(ひろ)げてこれに細君の帯と主人の羽織と繻絆(じゅばん)とその他あらゆる雑物(ぞうもつ)を奇麗に畳んでくるみ込む。その熟練と器用なやり口にもちょっと感心した。それから細君の帯上げとしごきとを続(つ)ぎ合わせてこの包みを括(くく)って片手にさげる。まだ頂戴(ちょうだい)するものは無いかなと、あたりを見廻していたが、主人の頭の先に「朝日」の袋があるのを見付けて、ちょっと袂(たもと)へ投げ込む。またその袋の中から一本出してランプに翳(かざ)して火を点(つ)ける。旨(う)まそうに深く吸って吐き出した煙りが、乳色のホヤを繞(めぐ)ってまだ消えぬ間(ま)に、陰士の足音は椽側(えんがわ)を次第に遠のいて聞えなくなった。主人夫婦は依然として熟睡している。人間も存外迂濶(うかつ)なものである。

吾輩はまた暫時(ざんじ)の休養を要する。のべつに喋舌(しゃべ)っていては身体が続かない。ぐっと寝込んで眼が覚(さ)めた時は弥生(やよい)の空が朗らかに晴れ渡って勝手口に主人夫婦が巡査と対談をしている時であった。

「それでは、ここから這入(はい)って寝室の方へ廻ったんですな。あなた方は睡眠中で一向(いっこう)気がつかなかったのですな」

「ええ」と主人は少し極(きま)りがわるそうである。

「それで盗難に罹(かか)ったのは何時(なんじ)頃ですか」と巡査は無理な事を聞く。時間が分るくらいなら何(な)にも盗まれる必要はないのである。それに気が付かぬ主人夫婦はしきりにこの質問に対して相談をしている。

「何時頃かな」

「そうですね」と細君は考える。考えれば分ると思っているらしい。

「あなたは夕(ゆう)べ何時に御休みになったんですか」

「俺の寝たのは御前よりあとだ」

「ええ私(わたく)しの伏せったのは、あなたより前です」

「眼が覚めたのは何時だったかな」

「七時半でしたろう」

「すると盗賊の這入(はい)ったのは、何時頃になるかな」

「なんでも夜なかでしょう」

「夜中(よなか)は分りきっているが、何時頃かと云うんだ」

「たしかなところはよく考えて見ないと分りませんわ」と細君はまだ考えるつもりでいる。巡査はただ形式的に聞いたのであるから、いつ這入ったところが一向(いっこう)痛痒(つうよう)を感じないのである。嘘でも何でも、いい加減な事を答えてくれれば宜(よ)いと思っているのに主人夫婦が要領を得ない問答をしているものだから少々焦(じ)れたくなったと見えて

「それじゃ盗難の時刻は不明なんですな」と云うと、主人は例のごとき調子で

「まあ、そうですな」と答える。巡査は笑いもせずに

「じゃあね、明治三十八年何月何日戸締りをして寝たところが盗賊が、どこそこの雨戸を外(はず)してどこそこに忍び込んで品物を何点盗んで行ったから右告訴及(みぎこくそにおよび)候也(そうろうなり)という書面をお出しなさい。届ではない告訴です。名宛(なあて)はない方がいい」

「品物は一々かくんですか」

「ええ羽織何点代価いくらと云う風に表にして出すんです。――いや這入(はい)って見たって仕方がない。盗(と)られたあとなんだから」と平気な事を云って帰って行く。

主人は筆硯(ふですずり)を座敷の真中へ持ち出して、細君を前に呼びつけて「これから盗難告訴をかくから、盗られたものを一々云え。さあ云え」とあたかも喧嘩でもするような口調で云う。

「あら厭(いや)だ、さあ云えだなんて、そんな権柄(けんぺい)ずくで誰が云うもんですか」と細帯を巻き付けたままどっかと腰を据(す)える。

「その風はなんだ、宿場女郎の出来損(できそこな)い見たようだ。なぜ帯をしめて出て来ん」

「これで悪るければ買って下さい。宿場女郎でも何でも盗られりゃ仕方がないじゃありませんか」

「帯までとって行ったのか、苛(ひど)い奴だ。それじゃ帯から書き付けてやろう。帯はどんな帯だ」

「どんな帯って、そんなに何本もあるもんですか、黒繻子(くろじゅす)と縮緬(ちりめん)の腹合せの帯です」

「黒繻子と縮緬の腹合せの帯一筋――価(あたい)はいくらくらいだ」

「六円くらいでしょう」

「生意気に高い帯をしめてるな。今度から一円五十銭くらいのにしておけ」

「そんな帯があるものですか。それだからあなたは不人情だと云うんです。女房なんどは、どんな汚ない風をしていても、自分さい宜(よ)けりゃ、構わないんでしょう」

「まあいいや、それから何だ」

「糸織(いとおり)の羽織です、あれは河野(こうの)の叔母さんの形身(かたみ)にもらったんで、同じ糸織でも今の糸織とは、たちが違います」

「そんな講釈は聞かんでもいい。値段はいくらだ」

「十五円」

「十五円の羽織を着るなんて身分不相当だ」

「いいじゃありませんか、あなたに買っていただきゃあしまいし」

「その次は何だ」

「黒足袋が一足」

「御前のか」

「あなたんでさあね。代価が二十七銭」

「それから?」

「山の芋が一箱」

「山の芋まで持って行ったのか。煮て食うつもりか、とろろ汁にするつもりか」

「どうするつもりか知りません。泥棒のところへ行って聞いていらっしゃい」

「いくらするか」

「山の芋のねだんまでは知りません」

「そんなら十二円五十銭くらいにしておこう」

「馬鹿馬鹿しいじゃありませんか、いくら唐津(からつ)から掘って来たって山の芋が十二円五十銭してたまるもんですか」

「しかし御前は知らんと云うじゃないか」

「知りませんわ、知りませんが十二円五十銭なんて法外ですもの」

「知らんけれども十二円五十銭は法外だとは何だ。まるで論理に合わん。それだから貴様はオタンチン·パレオロガスだと云うんだ」

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