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《吾輩は猫である》 作者:夏目漱石

五 - 7

「先生泥棒に逢いなさったそうですな。なんちゅ愚(ぐ)な事です」と劈頭(へきとう)一番にやり込める。

「這入(はい)る奴が愚(ぐ)なんだ」と主人はどこまでも賢人をもって自任している。

「這入る方も愚だばってんが、取られた方もあまり賢(かし)こくはなかごたる」

「何にも取られるものの無い多々良さんのようなのが一番賢こいんでしょう」と細君が此度(こんど)は良人(おっと)の肩を持つ。

「しかし一番愚なのはこの猫ですばい。ほんにまあ、どう云う了見じゃろう。鼠は捕(と)らず泥棒が来ても知らん顔をしている。――先生この猫を私(わたし)にくんなさらんか。こうしておいたっちゃ何の役にも立ちませんばい」

「やっても好い。何にするんだ」

「煮て喰べます」

主人は猛烈なるこの一言(いちごん)を聞いて、うふと気味の悪い胃弱性の笑を洩(も)らしたが、別段の返事もしないので、多々良君も是非食いたいとも云わなかったのは吾輩にとって望外の幸福である。主人はやがて話頭を転じて、

「猫はどうでも好いが、着物をとられたので寒くていかん」と大(おおい)に銷沈(しょうちん)の体(てい)である。なるほど寒いはずである。昨日(きのう)までは綿入を二枚重ねていたのに今日は袷(あわせ)に半袖(はんそで)のシャツだけで、朝から運動もせず枯坐(こざ)したぎりであるから、不充分な血液はことごとく胃のために働いて手足の方へは少しも巡回して来ない。

「先生教師などをしておったちゃとうていあかんですばい。ちょっと泥棒に逢っても、すぐ困る――一丁(いっちょう)今から考を換(か)えて実業家にでもなんなさらんか」

「先生は実業家は嫌(きらい)だから、そんな事を言ったって駄目よ」

と細君が傍(そば)から多々良君に返事をする。細君は無論実業家になって貰いたいのである。

「先生学校を卒業して何年になんなさるか」

「今年で九年目でしょう」と細君は主人を顧(かえり)みる。主人はそうだとも、そうで無いとも云わない。

「九年立っても月給は上がらず。いくら勉強しても人は褒(ほ)めちゃくれず、郎君(ろうくん)独寂寞(ひとりせきばく)ですたい」と中学時代で覚えた詩の句を細君のために朗吟すると、細君はちょっと分りかねたものだから返事をしない。

「教師は無論嫌(きらい)だが、実業家はなお嫌いだ」と主人は何が好きだか心の裏(うち)で考えているらしい。

「先生は何でも嫌なんだから……」

「嫌でないのは奥さんだけですか」と多々良君柄(がら)に似合わぬ冗談(じょうだん)を云う。

「一番嫌だ」主人の返事はもっとも簡明である。細君は横を向いてちょっと澄(すま)したが再び主人の方を見て、

「生きていらっしゃるのも御嫌(おきらい)なんでしょう」と充分主人を凹(へこ)ましたつもりで云う。

「あまり好いてはおらん」と存外呑気(のんき)な返事をする。これでは手のつけようがない。

「先生ちっと活溌(かっぱつ)に散歩でもしなさらんと、からだを壊(こわ)してしまいますばい。――そうして実業家になんなさい。金なんか儲(もう)けるのは、ほんに造作(ぞうさ)もない事でござります」

「少しも儲けもせん癖に」

「まだあなた、去年やっと会社へ這入(はい)ったばかりですもの。それでも先生より貯蓄があります」

「どのくらい貯蓄したの?」と細君は熱心に聞く。

「もう五十円になります」

「一体あなたの月給はどのくらいなの」これも細君の質問である。

「三十円ですたい。その内を毎月五円宛(ずつ)会社の方で預って積んでおいて、いざと云う時にやります。――奥さん小遣銭で外濠線(そとぼりせん)の株を少し買いなさらんか、今から三四個月すると倍になります。ほんに少し金さえあれば、すぐ二倍にでも三倍にでもなります」

「そんな御金があれば泥棒に逢ったって困りゃしないわ」

「それだから実業家に限ると云うんです。先生も法科でもやって会社か銀行へでも出なされば、今頃は月に三四百円の収入はありますのに、惜しい事でござんしたな。――先生あの鈴木藤十郎と云う工学士を知ってなさるか」

「うん昨日(きのう)来た」

「そうでござんすか、せんだってある宴会で逢いました時先生の御話をしたら、そうか君は苦沙弥(くしゃみ)君のところの書生をしていたのか、僕も苦沙弥君とは昔(むか)し小石川の寺でいっしょに自炊をしておった事がある、今度行ったら宜(よろ)しく云うてくれ、僕もその内尋ねるからと云っていました」

「近頃東京へ来たそうだな」

「ええ今まで九州の炭坑におりましたが、こないだ東京詰(づめ)になりました。なかなか旨(うま)いです。私(わたし)なぞにでも朋友のように話します。――先生あの男がいくら貰ってると思いなさる」

「知らん」

「月給が二百五十円で盆暮に配当がつきますから、何でも平均四五百円になりますばい。あげな男が、よかしこ取っておるのに、先生はリーダー専門で十年一狐裘(いちこきゅう)じゃ馬鹿気ておりますなあ」

「実際馬鹿気ているな」と主人のような超然主義の人でも金銭の観念は普通の人間と異(こと)なるところはない。否困窮するだけに人一倍金が欲しいのかも知れない。多々良君は充分実業家の利益を吹聴(ふいちょう)してもう云う事が無くなったものだから

「奥さん、先生のところへ水島寒月と云う人(じん)が来ますか」

「ええ、善くいらっしゃいます」

「どげんな人物ですか」

「大変学問の出来る方だそうです」

「好男子ですか」

「ホホホホ多々良さんくらいなものでしょう」

「そうですか、私(わたし)くらいなものですか」と多々良君真面目である。

「どうして寒月の名を知っているのかい」と主人が聞く。

「せんだって或る人から頼まれました。そんな事を聞くだけの価値のある人物でしょうか」多々良君は聞かぬ先からすでに寒月以上に構えている。

「君よりよほどえらい男だ」

「そうでございますか、私(わたし)よりえらいですか」と笑いもせず怒(おこ)りもせぬ。これが多々良君の特色である。

「近々(きんきん)博士になりますか」

「今論文を書いてるそうだ」

「やっぱり馬鹿ですな。博士論文をかくなんて、もう少し話せる人物かと思ったら」

「相変らず、えらい見識ですね」と細君が笑いながら云う。

「博士になったら、だれとかの娘をやるとかやらんとか云うていましたから、そんな馬鹿があろうか、娘を貰うために博士になるなんて、そんな人物にくれるより僕にくれる方がよほどましだと云ってやりました」

「だれに」

「私(わたし)に水島の事を聞いてくれと頼んだ男です」

「鈴木じゃないか」

「いいえ、あの人にゃ、まだそんな事は云い切りません。向うは大頭ですから」

「多々良さんは蔭弁慶(かげべんけい)ね。うちへなんぞ来ちゃ大変威張っても鈴木さんなどの前へ出ると小さくなってるんでしょう」

「ええ。そうせんと、あぶないです」

「多々良、散歩をしようか」と突然主人が云う。先刻(さっき)から袷(あわせ)一枚であまり寒いので少し運動でもしたら暖かになるだろうと云う考から主人はこの先例のない動議を呈出したのである。行き当りばったりの多々良君は無論逡巡(しゅんじゅん)する訳がない。

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