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《吾輩は猫である》 作者:夏目漱石

十一 - 19

「昔(むか)しスペインにコルドヴァと云う所があった……」

「今でもありゃしないか」

「あるかも知れない。今昔の問題はとにかく、そこの風習として日暮れの鐘がお寺で鳴ると、家々の女がことごとく出て来て河へ這入(はい)って水泳をやる……」

「冬もやるんですか」

「その辺はたしかに知らんが、とにかく貴賤老若(きせんろうにゃく)の別なく河へ飛び込む。但(ただ)し男子は一人も交らない。ただ遠くから見ている。遠くから見ていると暮色蒼然(ぼしょくそうぜん)たる波の上に、白い肌(はだえ)が模糊(もこ)として動いている……」

「詩的ですね。新体詩になりますね。なんと云う所ですか」と東風君は裸体(らたい)が出さえすれば前へ乗り出してくる。

「コルドヴァさ。そこで地方の若いものが、女といっしょに泳ぐ事も出来ず、さればと云って遠くから判然その姿を見る事も許されないのを残念に思って、ちょっといたずらをした……」

「へえ、どんな趣向だい」といたずらと聞いた迷亭君は大(おおい)に嬉しがる。

「お寺の鐘つき番に賄賂(わいろ)を使って、日没を合図に撞(つ)く鐘を一時間前に鳴らした。すると女などは浅墓(あさはか)なものだから、そら鐘が鳴ったと云うので、めいめい河岸(かし)へあつまって半襦袢(はんじゅばん)、半股引(はんももひき)の服装でざぶりざぶりと水の中へ飛び込んだ。飛び込みはしたものの、いつもと違って日が暮れない」

「烈(はげ)しい秋の日がかんかんしやしないか」

「橋の上を見ると男が大勢立って眺(なが)めている。恥ずかしいがどうする事も出来ない。大に赤面したそうだ」

「それで」

「それでさ、人間はただ眼前の習慣に迷わされて、根本の原理を忘れるものだから気をつけないと駄目だと云う事さ」

「なるほどありがたい御説教だ。眼前の習慣に迷わされの御話しを僕も一つやろうか。この間ある雑誌をよんだら、こう云う詐欺師(さぎし)の小説があった。僕がまあここで書画骨董店(こっとうてん)を開くとする。で店頭に大家の幅(ふく)や、名人の道具類を並べておく。無論贋物(にせもの)じゃない、正直正銘(しょうじきしょうめい)、うそいつわりのない上等品ばかり並べておく。上等品だからみんな高価にきまってる。そこへ物数奇(ものずき)な御客さんが来て、この元信(もとのぶ)の幅はいくらだねと聞く。六百円なら六百円と僕が云うと、その客が欲しい事はほしいが、六百円では手元に持ち合せがないから、残念だがまあ見合せよう」

「そう云うときまってるかい」と主人は相変らず芝居気(しばいぎ)のない事を云う。迷亭君はぬからぬ顔で、

「まあさ、小説だよ。云うとしておくんだ。そこで僕がなに代(だい)は構いませんから、お気に入ったら持っていらっしゃいと云う。客はそうも行かないからと躊躇(ちゅうちょ)する。それじゃ月賦(げっぷ)でいただきましょう、月賦も細く、長く、どうせこれから御贔屓(ごひいき)になるんですから――いえ、ちっとも御遠慮には及びません。どうです月に十円くらいじゃ。何なら月に五円でも構いませんと僕が極(ごく)きさくに云うんだ。それから僕と客の間に二三の問答があって、とど僕が狩野法眼(かのうほうげん)元信の幅を六百円ただし月賦十円払込の事で売渡す」

「タイムスの百科全書見たようですね」

「タイムスはたしかだが、僕のはすこぶる不慥(ふたしか)だよ。これからがいよいよ巧妙なる詐偽に取りかかるのだぜ。よく聞きたまえ月十円ずつで六百円なら何年で皆済(かいさい)になると思う、寒月君」

「無論五年でしょう」

「無論五年。で五年の歳月は長いと思うか短かいと思うか、独仙君」

「一念万年(いちねんばんねん)、万年一念(ばんねんいちねん)。短かくもあり、短かくもなしだ」

「何だそりゃ道歌(どうか)か、常識のない道歌だね。そこで五年の間毎月十円ずつ払うのだから、つまり先方では六十回払えばいいのだ。しかしそこが習慣の恐ろしいところで、六十回も同じ事を毎月繰り返していると、六十一回にもやはり十円払う気になる。六十二回にも十円払う気になる。六十二回六十三回、回を重ねるにしたがってどうしても期日がくれば十円払わなくては気が済まないようになる。人間は利口のようだが、習慣に迷って、根本を忘れると云う大弱点がある。その弱点に乗じて僕が何度でも十円ずつ毎月得をするのさ」

「ハハハハまさか、それほど忘れっぽくもならないでしょう」と寒月君が笑うと、主人はいささか真面目で、

「いやそう云う事は全くあるよ。僕は大学の貸費(たいひ)を毎月毎月勘定せずに返して、しまいに向(むこう)から断わられた事がある」と自分の恥を人間一般の恥のように公言した。

「そら、そう云う人が現にここにいるからたしかなものだ。だから僕の先刻(さっき)述べた文明の未来記を聞いて冗談だなどと笑うものは、六十回でいい月賦を生涯(しょうがい)払って正当だと考える連中だ。ことに寒月君や、東風君のような経験の乏(とぼ)しい青年諸君は、よく僕らの云う事を聞いてだまされないようにしなくっちゃいけない」

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